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コラム

髙木凜々子 With ストラディヴァリウス
インタビュー ─ 後編 ─

若手実力派バイオリニスト髙木凜々子とストラディヴァリウスが出会って半年。
ストラディヴァリウスに対する想いと、インターネット上で活動する目的を語ってもらった前編に続き、後編は髙木さんが愛用している弦楽器の周辺アイテムや、演奏する上で重きを置いていることについて話を聞いた。

弓は髙木家が所有している中で一番いい弓を使っています(笑)

――使用している弓や周辺アイテムについてお伺いしたいと思います。まず使用している弓はどのようなものでしょうか。

弓は2本使用しています。それも髙木家が所有している中で一番いい弓を使っています(笑)。

――なるほど。曲によって使い分けているんですか?

1本はすごくやわらかい音を出せる弓で、もう1本は強めの音をしっかり出せる弓です。この2本は曲によって使い分けています。あと、練習しているときの弓はまた別の弓を使っているので、実際には3本の弓を使いまわしています。なんて贅沢な(笑)。

――うらやましい限りです(笑)。では次は肩当てについてですが。

ちょっと使い込みがすごいんですけど……これはもう販売されていなかったような……。

――「il-gladio(イル・グラディオ)」の肩当てですね。すごく使い込まれてる!

いつ壊れるかっていう……(笑)。スポンジはよく取れちゃうので、父が張り替えてくれています。

――お父様のお手製!足のゴムはオリジナルのものではなく、チューブですね?

これは専用の物ではなく、ゴムチューブを買ってきて付けてます。

――ゴムチューブは滑りにくいって言いますね。

楽器との接触部分が擦り切れて中の金属が出てしまったりするので、それが嫌だから交換可能なものを使用しています。

――続いて使用している松脂についてお伺いします。

松脂は『Silver Ⅰ……?』という、シルバーとか、ゴールドとかいろいろあるタイプのものです。すいません、メーカーの名前は出てこないです……。

――箱は残っていないんですか?

箱は捨てちゃいました(笑)。

――捨てちゃったんですね(笑)。これもずっとお使いになっているものですか?

はい。ずっと使ってます。でも楽器の調整をしていただいているトマゾさん(※) にそろそろ替えたほうがいいって言われました。

――だいぶ使い込まれてますもんね。この松脂は楽器や弓に合っていると思いますか?

そうですね。もともと先生がおすすめしてくれた松脂でとても気に入って使っているのですが、一度割れてしまったりもして状態があまり良くないんですけど、もったいないので今も大切に使っています。

――個人的に、上手な人ほど物にこだわらないイメージがあります。

でも物欲はありますよ!かわいい洋服が欲しい~とかメイク用品が欲しい~とか!(笑)。

左:長年愛用されている肩当て。パッドや足ゴムはオリジナルのもの。こちらの肩当ては残念ながら生産終了となっている。
右:松脂の箱を捨ててしまったことを笑いながら教えてくれた髙木さん。松脂は恐らく Liebenzeller(リーベンツェラー)現LARICA(ラリカ)の「Silver Ⅰ」だと思われる。

(※)トマゾさん:髙木さんが使用しているストラディヴァリウスの点検・調整を担当しているイタリア出身の弦楽器製作家であり、クロサワバイオリンリペアマン・スペシャルアドバイザー、トマゾ・プンテッリ 。

――次は使用している弦についてです。Youtubeの動画ではE、A、D線がトマスティーク社のペーターインフェルドでG線はピラストロ社のオリーブとおっしゃっておりましたが。(参照:Youtube髙木凜々子チャンネル「【100の質問】毎日の練習時間は?首にアザは?バイオリンについて答えました!」

そうですね、以前はG線はオリーブを使用していたのですが、今は全部ペーターインフェルドです。

――G線を変えられたのはなぜですか?

強い曲でひっかけるときに、どうしてもオリーブだと音が弱い気がしたので変えました。弦に対してはあまりこだわりは持っていませんので、今もいろいろ試してます。

――これ!っていうのは特に決まっていないのですか?

そうですね。いろいろ冒険しつつ、今は安定のペーターインフェルドになっています。

――いい弦といったらオブリガートやエヴァピラッツィを思い浮かべますが。

うーん、たしかにいい音はするのかもしれないし響くかもしれないんですけど、E線の上の方がちょっと強すぎて、パガニーニとか弾くと特に小指が痛いんですよね(笑)。ですので、私はあまり使っていないですね。

――今トマスティーク社から最新弦としてペーターインフェルドの上位モデル「ロンド」が発売されていますね。

え!それは知らなかったです!

――機会があればぜひ使ってみてください。では続きまして、300年以上前のバイオリン。保管時に気を付けていることはありますか?

楽器を家に置いて出る時は必ずケースの鍵をかけて、ちゃんとしまってから出かけるようにしています。家に入られても開けられないように。あとはエアコンの下に置かないとか、高温多湿な場所に置かないとか。

――基本をしっかり守ってらっしゃるんですね。

はい、基本を大事にして保管場所には気を使っています。ダイレクトに音に影響しますからね。湿気が多くなると楽器は全然響かなくなります。その反対で乾燥しすぎてもだめ。だからなるべく自分の部屋も常に湿度が50%前後になるようにしています。

――それって音色の絶妙な変化がわかるからこそできることですね。

コンディションが悪いときは、なんか楽器が泣いてる気がして……。

――ずーっとバイオリンと一緒だったからこそわかるんですね。

そうですね、耳が肥えてしまいました(笑)。

何も考えてないと何も考えてない音が出るんです

――演奏時に気を付けている事はありますか?

昔は結構、何も考えないように『無』の状態で弾いていました。でも今は出したい音っていうものを考えながら弾いています。音に対しての執着が何もないと、人の心には絶対に響かないと思ったんです。それからは、練習の時から出したい音について常に考えるようにしています。

――練習のときもですか?

練習のときもです。もちろん音程を取るとか基礎的なことを考えつつ、音色のこともよく考えなさいと先生から口を酸っぱく言われ続けて身に付きました。だから練習しているとすごく頭が疲れますね。もう頭がイターイ、もう音楽聴きたくなーいみたいになるほど(笑) 。

――常に何かを考えながら弾いているってことですね?

何も考えないで弾いていると、先生にすぐ見抜かれてしまいます。そして「何その音!」と、ものすごく怒られるんですよ。全く気が抜けません……。何も考えてないと何も考えてない音が出るんです。どんなときでも表現することの大切さを学んでいます。

――どの段階から音色のことを考えていくんですか?

ある程度弾けるようになってから音色や表現を考えていきます。とにかく、音に対してのしっかりとしたイメージを持つことが重要なんです。音を出す前と、出た後のイメージにずれがないかを確かめながら演奏し続ける感じです。とにかく耳がいくつあってもたりません。
演奏して出している音と、実際に聴こえている音の違いを客観的に知ることが大切だと言われます。例えば録音した音を再生して聴くと、思っていたのと全然違ったりするんです。
慣れてくれば自分が出している音を客観的に理解しながら演奏出来るらしいのですが、私にはまだ難しいので、録音した音を聴き直したりしながらイメージしている音を出せるように弾き込んでいきます。

――繰り返し繰り返しの経験値ですね。

そう。経験値がすごく必要だなって思います。

絶対に「楽しさ」を忘れないでほしい

――最後に、これからバイオリンを頑張ろうと思っている方々に向けて一言アドバイスをいただけますか?

これはいろんな所でよく話していることなのですが、音楽って『音を楽しむ』って書くじゃないですか。でもどうしても『音を学ぶ』になってしまいがちなんですよね。つらいし、やらなきゃいけない勉強みたいな感じになってしまうと思うんですけど、絶対に『楽しさ』というのを忘れないでほしいです。「楽しんでください」って言いたいです!

――バイオリンだけでなく、どの楽器にも、どんなことを頑張っている人にも言える素敵な言葉ですね。

これを聞いたのはたぶん中学生くらいのときなんですよね。「音を楽しむと書いて音楽と読む」この言葉は私にとってとても衝撃的でした。 今でもずっと大切にしています。

――今、私も衝撃的でした。

本当ですか!学べば学ぶほどつらいこともある……。だからこそ、そういう楽しむ心を絶対に忘れてほしくないと思います。


インタビュー中、こちらのリクエストになんでも笑顔で答えてくれた髙木さん。
普段はとても元気で可愛らしい女性だけれど、ひとたび楽器を持ってステージへ上がると凜として美しい。 そんな二つの顔を持ち合わせている髙木さんだが、いつでも変わらないのは「バイオリンが大好き」ということだ。
お貸出ししたストラディヴァリウス「Lord Borwick」はこの先、もう半年ほど経った頃には今より何倍も美しい音色で鳴り響くだろう。それは髙木さんが演奏するからこそ。髙木さんと「Lord Borwick」はこれからも互いを高め合い、私たちに素晴らしい音色を届けてくれるだろう。今後も髙木さんの活躍から目が離せない。

プロフィール

髙木 凜々子 (たかぎ りりこ)

巨匠アッカルドが認める若き実力者。
2017年、ハンガリー、ブタペストで行われたバルトーク国際コンクールで第2位、並びに特別賞を受賞し、国際的に注目される。続く2018年、東京音楽コンクールで第2位、並びに聴衆賞受賞。国内外でのリサイタルやオーケストラとの共演で活躍の場を広げる。3歳よりバイオリンを始める。日本演奏家コンクール、洗足学園ジュニアコンクール、全日本ジュニアクラッシックコンクール、小学生部門それぞれ第1位。全日本学生音楽コンクール全国大会第3位。かながわ音楽コンクール、横浜国際音楽コンクール、全日本学生音楽コンクール東京大会中学生部門それぞれ第1位。津田梅子賞受賞。2010年度財団法人 ヤマハ音楽振興会最年少音楽奨学生。2018年度ローム音楽奨学生。東京芸術大学音楽学部附属音楽高校を経て東京芸術大学音楽学部卒業。その他のコンクール歴としては2012年オーストリア、オスト•ヴェスト•ミュージックフェスト音楽祭主催ベートーヴェン国際コンクール第1位。2014年イタリアで開催されたユーロアジア国際音楽コンクール in Italy 第1位。2015年ユーロアジア国際音楽コンクール in Tokyo 第1位。2016年スペインで開催されたユーロアジア国際音楽コンクール in Spain 第1位。2017年 シュロモミンツ国際コンクール第3位。2018年5月にはニューヨーク日本総領事館にてリサイタルを開催し、コシュシュカ財団から新人賞を受賞した。東京文化会館をはじめ、日本各地でリサイタルを行う。これまでに、読売日本交響楽団、東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー、広島交響楽団、大阪交響楽団、ハンガリー国立交響楽団セゲド、ブダペストのアニマ・ムジツェ室内合奏、ハンガリーソルノク市立交響楽団、など国内外の楽団とチャイコフスキー、メンデルスゾーン、ブラームス、ベートーヴェン、ブルッフ、モーツアルトなどの協奏曲や小品を共演し好評を博す。使用楽器は(株)黒澤楽器より貸与されているストラディヴァリウス「Lord Borwick」(1702年)

    

ストラディヴァリウス「Lord Borwick(ロード・ボーヴィック)」(1702)貸与に関して

黒澤楽器店が取り扱う3挺目のストラディヴァリウス。この「Lord Borwick」(※1)は数年前から所有している。深い歴史的な意味を持つストラディヴァリウスを、音楽業界への貢献とその発展のために、またその音色を多くの方に聴いていただきたいと思い、その願いを叶えていただける演奏家を探していたところ、髙木凜々子さんとのご縁をいただいた。髙木さんの音楽への情熱、取り組み方に並々ならぬものを感じ、今後の活動の一助となるべくお貸出しすることとなった。ヴィルトゥオーソ(※2)であるだけでなく、華のある演奏で聴衆を魅了することのできる髙木さんは「Lord Borwick」との相性がとても良く、すでに数々の曲を演奏し、多くの人へ届けている。今後、楽器は彼女の魅力を、彼女は楽器の魅力をもっともっと引き出していくだろう。

(※1)ストラディヴァリウスにはその所有者や演奏者の来歴が明らかなものがあり、たどってきた軌跡に由来する二つ名(通称)が付けられている。今回髙木さんにお貸出ししたストラディヴァリウスは通称「Lord Borwick(ロード・ボーヴィック)」という。
(※2)ヴィルトゥオーソ:完璧な演奏技巧によって困難をやすやすと克服することのできる、卓越した演奏能力の持ち主に対する称賛の言葉。